身上話

 

 
 富岡多恵子 詩集<返礼>から

    身上話 


 おやじもおふくろも
 とりあげばあさんも
 予想屋という予想屋は
 みんな男の子だと賭けたので
 どうしても女の子として胞衣をやぶった
 
 すると
 みんなが残念がったので
 男の子になってやった
 すると
 みんながほめてくれたので
 女の子になってやった
 すると
 みんながいじめるので
 男の子になってやった
 
 年頃になって
 恋人が男の子なので
 仕方なく女の子になった
 すると
 恋人の他のみんなが
 女の子になったというので
 恋人の他のものには
 男の子になってやった
 恋人にも残念なので
 男の子になったら
 一緒に寝ないというので
 女の子になってやった

 そのうち幾世紀かが済んでしまった
 今度は
 貧乏人が血の革命を起して
 一片のパンだけで支配されていた
 そこで中世の教会になった
 愛だ愛だと
 古着とおにぎりを横丁にくばって歩いた

 そのうち幾世紀かが済んでしまった
 今度は
 神の国が来たと
 金持と貧乏人が大の仲良しになっていた
 そこで
 自家用のヘリコプターでアジビラをまいた

 そのうちに幾世紀かが済んでしまった
 今度は
 血の革命家連中が
 さびた十字架にひざまずいていた
 無秩序の中に秩序の火がみえた
 そこで
 穴ぐらの飲み屋で
 バイロンやミュッセや
 ヴィヨンやボードレール
 ヘミングウェイや黒ズボンの少女達と
 カルタをしたり飲んだり
 東洋の日本という国の
 かの国独特のリベルタンとかについて
 しみじみ議論した
 そして
 専ら愛の同時性とかについて
 茶化し合った

 おやじもおふくろも
 とりあげばあさんも
 みんな神童だというので
 低能児であった
 馬鹿者だというので
 インテリとなり後の方に住家をつくった
 体力をもてあましていた

 後の方のインテリという
 評判が高くなると
 前に出て歩き出した
 その歩道は
 おやじとおふくろの歩道だった
 あまのじゃくは当惑した
 あまのじゃくの名誉にかけて煩悶した
 そこで
 立派な女の子になってやった
 恋人には男の子になり
 文句を言わせなかった