『浮世柄比翼稲妻』

11月26日(月)

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四世鶴屋南北=作
浮世柄比翼稲妻(ウキヨヅカヒヨクノイナヅマ)
   序  幕   東海道境木の場   
           鎌倉初瀬寺の場
           同 本庄助太夫屋敷の場
   二幕目   鈴ヶ森の場
   三幕目   浅草鳥越山三浪宅の場
   大  詰     吉原仲之町の場
            ―伊達競曲輪鞘当―長唄連中

不破伴左衛門・幡随院長兵衛 = 松本幸四郎(9代目)
腰元岩橋後ニ傾城葛城・山三の下女お国・長兵衛女房お近 = 中村福助(9代目)
名古屋山三 = 中村錦之助(2代目)
白井権八 = 市川高麗蔵(11代目)
振袖新造初風 = 坂東新悟(初代)
振袖新造春里 = 中村隼人(初代)
茶屋廻り鶴吉 = 大谷廣太郎(3代目)
茶屋廻り亀吉 = 大谷廣松(2代目)
山三の若党八内・飛脚早助 = 澤村宗之助(3代目)
番頭新造花山 = 中村歌江(初代)
本庄助太夫 = 松本錦吾(3代目)
石塚玄蕃・雲助北海の熊穴 = 片岡市蔵(6代目)
佐々木額五郎・雲助東海の勘蔵 = 市川右之助(3代目)
伴左衛門の中間又平 = 坂東彌十郎(初代)
佐々木桂之助 = 大谷友右衛門(8代目)

 
 

身上話

 

 
 富岡多恵子 詩集<返礼>から

    身上話 


 おやじもおふくろも
 とりあげばあさんも
 予想屋という予想屋は
 みんな男の子だと賭けたので
 どうしても女の子として胞衣をやぶった
 
 すると
 みんなが残念がったので
 男の子になってやった
 すると
 みんながほめてくれたので
 女の子になってやった
 すると
 みんながいじめるので
 男の子になってやった
 
 年頃になって
 恋人が男の子なので
 仕方なく女の子になった
 すると
 恋人の他のみんなが
 女の子になったというので
 恋人の他のものには
 男の子になってやった
 恋人にも残念なので
 男の子になったら
 一緒に寝ないというので
 女の子になってやった

 そのうち幾世紀かが済んでしまった
 今度は
 貧乏人が血の革命を起して
 一片のパンだけで支配されていた
 そこで中世の教会になった
 愛だ愛だと
 古着とおにぎりを横丁にくばって歩いた

 そのうち幾世紀かが済んでしまった
 今度は
 神の国が来たと
 金持と貧乏人が大の仲良しになっていた
 そこで
 自家用のヘリコプターでアジビラをまいた

 そのうちに幾世紀かが済んでしまった
 今度は
 血の革命家連中が
 さびた十字架にひざまずいていた
 無秩序の中に秩序の火がみえた
 そこで
 穴ぐらの飲み屋で
 バイロンやミュッセや
 ヴィヨンやボードレール
 ヘミングウェイや黒ズボンの少女達と
 カルタをしたり飲んだり
 東洋の日本という国の
 かの国独特のリベルタンとかについて
 しみじみ議論した
 そして
 専ら愛の同時性とかについて
 茶化し合った

 おやじもおふくろも
 とりあげばあさんも
 みんな神童だというので
 低能児であった
 馬鹿者だというので
 インテリとなり後の方に住家をつくった
 体力をもてあましていた

 後の方のインテリという
 評判が高くなると
 前に出て歩き出した
 その歩道は
 おやじとおふくろの歩道だった
 あまのじゃくは当惑した
 あまのじゃくの名誉にかけて煩悶した
 そこで
 立派な女の子になってやった
 恋人には男の子になり
 文句を言わせなかった